点字のパッケージなんて誰も買わない? 化粧品ブランド「HEALOGY」の挑戦

点字のパッケージなんて誰も買わない? 化粧品ブランド「HEALOGY」の挑戦

2022年度グッドデザイン賞(主催:公益財団法人日本デザイン振興会)を、化粧品ブランド「HEALOGY」が受賞。化粧品のパッケージに点字を用い、心地よさと安全性を追求しながらライフスタイルに調和するデザインが高く評価されました。

2022/11/13


◆「HEALOGY」とは?

ABELLNESS合同会社から発売されている「HEALOGY(ヒーロジー)」。100%天然植物由来で、ヒトにも環境にも優しいのが特徴です。また天然植物由来、動物実験を行っていない原料のみを使用し、ジェンダーに関係なく使えるスキンケア商品でもあります。
今回、公益財団法人日本デザイン振興会は2022年度のグッドデザイン賞を、この「HEALOGY」に授与。点字をパッケージに盛り込んだことが評価されての受賞となりました。
HEALOGYが追求するヒーリングとは、「深呼吸から始まる、スキンケア」。「どんなに忙しい生活の中でも、よりマインドフルに過ごせるように」との想いが込められた、「Calm. Deep. Breath.(ゆっくり深呼吸)」という英語点字が商品パッケージに盛り込まれています。
点字デザインのポイントは3つ 1. 環境や動物にやさしい原料・素材を優先し、効能で持続可能な商品展開を目指す。 2. 安心・安全を提供し、日本製へのこだわりを商品ラベルに和紙素材を使って表現。 3. SDGsの一環「誰一人取り残さない」社会を目指し、点字をデザインで体現。 が掲げられています。
「La diversité」では、点字を商品パッケージにしたデザインに取り組んだ理由などをHealogyの創業者であるTOMOMIさんに聞きました。

◆人の役に立つものを作りたいという、強い想いが出発点に
――グッドデザイン賞審査委員評価コメントに「点字をデザインにあしらったユニークなパッケージの製品。シンプルな表現手法だが、今までになかった手法でブランドを訴求できているように感じた。健常者がメインターゲットの製品群だと思うが、点字はただの意匠だけではなく、基礎化粧品なので視覚障害者も使うことが想定できる。そのため、より多くの人に意味が感じられるデザインではないだろうか。リサイクル・FSC・植物由来など、これからの標準となるだろう環境対応ができていることにも共感した。」とありました。このコメントの通り、スキンケアは障害の有無にかかわらず、日常に溶け込んだ行為です。 HEALOGYのパッケージに点字を盛り込もうと思った理由は何ですか?
TOMOMIさん:短い期間ではありましたが、目を患ったことが大きく影響しています。ちょっと買い物に行くといったことはもちろん、日常生活のちょっとしたことが不便になり、大変だったんです。周りを見てみると目に障害がある人も障害がない人も買いやすく、使いやすい商品って少ないですよね。そう考えたときに、我々HEALOGYで誰もが環境のことも考えた「いいもの(商品」をつくり、すべての人が自立した生活を送ることができるデザインのパッケージで売り出したいと思ったんです。
――今回、デザインに盛り込まれた点字は商品名やスキンケア商品であることを伝えるものではなく、商品コンセプトである「Calm. Deep. Breath.」で、かつ日本語点字ではなく、英語点字です。誤解を恐れずにいうと、日本で目に障害があり、点字を必要とする人たち向けというには、実用性という意味でマイナスになってしまうのでは?と感じたのですが、それにも何か理由があるのでしょうか?
TOMOMIさん:そこには「点字のルール」があります。点字は視覚に障害がある方にとって命にも関わる伝達手段。ですから、とても厳密にルールが決められており、日本語と英語では表記方法も異なります。商品名やスキンケア商品であることを日本語点字でパッケージにルールに則った点の大きさ、間隔でデザインしようとすると、パッケージに収まり切らないんです。そして英語に比べて日本語の方が点字にした際に字数が多くなる。点字をパッケージに使っても、ルールに従わず、視覚障害をお持ちの方に伝わらないのでは意味がありませんよね。きちんとルールに則って、パッケージに載せることができる文字数の言葉。そして点字、つまり言葉に触れたとき、視覚障碍者の方に障害のない方と同じような想いでスキンケアをしてもらえるメッセージは何だろうと考えました。
その結果、「深呼吸から始まる、スキンケア」HEALOGYの想いを伝えることができる「Calm. Deep. Breath.」というメッセージを英語点字でパッケージに載せることにしたのです。「1回深呼吸しましょう。落ち着いてリラックスしましょう」というメッセージが、点字を通じて伝わればいいな、と思ってのことです。視覚に障害がある方にも、スキンケアの時間をスペシャルなものとして感じていただきたいですから。
ーーなるほど。そんな背景があったのですね。もう一つ気になっているのが、コスト面です。 昨今の世界的な潮流として、地球環境に配慮すること、サステナビリティやSDGs的な観点が欠かせなくなっています。そこで議論になるのが、環境に配慮した商品開発、生産、流通などのコストは誰が負担するという点です。事業者なのか、生活者なのか。コストがかかれば、事業者側は商品価格を上げざるを得ません。でも、あまりに高額になると生活者の経済状況を圧迫するため、それもできない。何より、できるだけ安いものを求める生活者の意識を考えると、高めの価格を設定することはリスクがあります。 点字のパッケージにすることで、点字なしよりも生産コストは上がりませんでしたか?
TOMOMIさん:たしかにパッケージに点字を載せるとコストは上がります。正直、めちゃくちゃ上がります。
さらに言うと、点字を印刷できる印刷所の数の少なさにも驚きました。デザインとして、例えばエンボス加工で点字風の印刷にするのであれば、できるところもあるのかもしれません。しかし先程も申し上げた通り、点字には厳格なルールがあります。点字の凹凸面の高さにも決まりがあります。しっかりルールを守って、点字として認められるものを作ることができる印刷所は本当に限られていました。
コストと印刷所の数以外にも、制作過程には数えきれないほどの課題がありました。
――それだけの課題があっても、点字を載せるパッケージデザインにこだわられたんですね。
TOMOMIさん:はい。点字のパッケージは今後も続けていきたいと強く思っています。そのうえで私は、これを一般化していきたいという想いがありまして。だからこそ、私どものような小さなブランドがやることに意味があると考えたんです。私たちのような小さなところでもできるのだから、資金のある大きな企業さんならもっと多くのことができるはずです。
視覚障害だけではなく、今の社会の中で生きづらさを感じている人が取り残されることがないような商品づくり、そしてそのためのメッセージ発信が当たり前になって欲しいと思います。
――本当におっしゃる通りですね。HEALOGYは化粧品ですが、日常生活には欠かせないものがたくさんあります。例えば食料品や飲料、日常雑貨などは生きるために必要なものも多いです。HEALOGYの今回の試みが化粧品というジャンルの枠を超えて広がっていくといいですね。
TOMOMIさん:そう言ってだいていただけると、本当にうれしいです。
HEALOGYで点字をやりたいと私がいったとき、最初、まわりは「どうして点字?」という感じでした。頭ごなしに「点字のパッケージの商品なんて、みんな買わないのでは?」という人もいたほどです。でも、それは「買わない」のではなくて、これまでそういう選択肢がなかったから、選べない、自由に行動できていないだけではないでしょうか。社会のなかに、誰もが自分らしく、自分の好きなものを選び、生活することができる環境がもっとできたらいいと思います。
ですから、おっしゃるように食料品や飲料には、早く広がっていってほしいです。
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商品パッケージにおけるデザイン性と実用性のバランスは、メーカーにとって大きなテーマです。とりわけ障害を持つ人を取り巻く環境では常に、デザインよりも実用性が重視されがちになります。デザイン性に偏り、注意を促すべきこと・知らせなくてはいけないことを伝えることをおろそかにすると、命の危険やケガに繋がったり、状態の悪化を招くことになるので、当然といえるでしょう。
では、伝えるべきを伝え、知らせることは知らせつつ、デザイン性も求めることはできないのでしょうか? その問いに対する答えの一つがHEALOGYの点字パッケージだと、お話を伺いながら感じました。TOMOMIさんのように強い想いを持って、商品づくりをする人たちが、いろいろなジャンルで誕生したら、きっと日本は、そして世界は大きく変わっていくのだと思います。
(取材・文 榊原すずみ)

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